今から25年以上前の私が新入社員の頃、カスタマーセンターやインターネットもなく、お客さまからのお問い合わせやお手続きは代理店や営業店、もしくは本社の大代表や部署の代表電話にご連絡をいただきお受けしていました。
代表電話の受付は当時、新入社員の重要な業務でお手続きのご希望には営業店や各部署で手続書類を用意して郵送でお送りしていました。
私の所属する当時の保険金部、現在の保険金サービス部は部長、課長、課長代理、一般職3名のたった6名でした。
いつものように代表電話が鳴り、電話を取ると
高齢の女性が「夫が癌で入院しているので給付金を請求したい」とおっしゃいました。
私は手続方法を一通り説明し「診断書の取付には費用がかかるので、ご入院中ならば退院してからまとめてご請求がお勧め」とマニュアル通りご案内しました。
お客さまは一旦、途中の分まで請求したい、とのことで書類を準備して郵送しました。
当時はお客様が返送くださった手続き書類を封筒を開け、整えて仕分けするのも私の仕事でしたのでしばらくしてこのお客様の手続書類が返送されてくると私が郵便を受取り、受付して、支払をしました。
一か月ほどするとその後の入院分を請求したいとご連絡があり同じように書類をお送りし、また返送されてきた書類を受付けて査定し、支払いをしました。
また約一か月後、同様にまた書類が欲しいと連絡があり「月ごとでなく退院後にまとめてがよいのではないか」と案内しました。もちろんお客様の負担を考慮したマニュアルどおりの案内ですが「まとめて請求してくれれば助かるな」という気持ちもあったと思います。
今度は一か月も経たずご連絡があり、「夫が亡くなったので死亡保険金の請求もしたい」とのことでした。書類を送り、
しばらくすると請求書類が返送されてきて、これが最後なんだと何か感じるものを抱きつつお支払いをしました。
それから数カ月ほどして、その奥様から保険金部ご担当者様へという一通の封書が届きました。
【先日、死亡保険金をいただきました。
私たち夫婦は子供もなく仕事も引退し特に何か目標とすることもなかったので、毎月給付金の請求を「お仕事」と思って、『今月もできたね、来月もまた「お仕事」あるよ』と手続きの「仕事」を二人で一緒にできる目標にさせてもらいました。
何度も書類を送っていただきご面倒をおかけしましたが、お付き合いいただいたおかげで二人で目標をもって頑張る最後の良い時間を持てました。御社の保険に入っていて本当に良かったです。これまでお世話になりありがとうございました】
という趣旨が丁寧に手書きで書いてありました。
その時の私の気持ちは上手く表現できません。自分をとても恥ずかしく思い後悔しました。一人の人間として自分で考え、電話口のお客様にかけるべき言葉がなかったのか・・・。
生命保険に深い考えもなく就職した私にとっては生命保険の仕事がお客様の大事な人生の時間、場面と一緒にある素敵な仕事だと初めて体感した瞬間であり、またお客さまにはそれぞれに唯一無二の人生、背景、時間があり、多様な価値観がある、私達保険会社の視点で勝手にお客様のため等と決めつけたり驕らず、寄り添う方法を考える難しさと大切さを考えた最初だったように思います。
- ※現在は請求手続き時にデジタル化への取組みも行っています。
- ※所属部門・年代は執筆時時点での情報です。