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がん保険のおすすめは?年代・家族構成で変わる賢い選び方

がんはどの年代でも発症の可能性があり、誰にとっても無関係とは言えない病気です。医療技術が進歩した今もなお、治療費や療養中の生活費といった経済的負担は決して軽くありません。公的医療保険だけでは不足しがちな経済的負担をカバーし、安心して治療に専念できる環境を支えるための、ライフステージ別のおすすめの「がん保険の選び方」について解説します。

がん治療の変化と新たな保障ニーズ

医者と患者が話をする姿 

進歩する治療技術と短期化する入院

がん治療は医療技術の進歩により大きく変化しています。従来の外科手術や放射線治療に加え、がんゲノム医療などの新しい治療法が導入され、一人一人の体質や病状に合わせた治療が可能になりました。

  • がんゲノム治療とは?
    がんゲノム医療は、遺伝子情報に基づくがんの個別化治療の1つ。主にがんの組織を用いて、多数の遺伝子を同時に調べ(がん遺伝子パネル検査*1)、遺伝子変異*2を明らかにすることにより、一人一人の体質や病状に合わせて治療などを行う医療。このがん遺伝子パネル検査は、一部の条件を満たせば公的医療保険が適用されるが、その後の遺伝子変異に応じた薬剤がまだ保険適用外の場合など、治療費が高額になるケースもある。
    1. *1がん遺伝子パネル検査は、がんゲノムプロファイリング検査と呼ばれることもある。
    2. *2遺伝子変異は、細胞の中の遺伝子がなんらかの原因で後天的に変化することや、生まれもった遺伝子の違い。
    3. 参考:国立がん研究センターがん情報サービス「がんゲノム医療とがん医療における遺伝子検査」をもとに当社で作成

厚生労働省の調査によれば、「がん(悪性新生物)」の平均在院日数は、2005年の約24.6日から2017年には約13.4日へと短縮されています。※1  入院の短期化が進む一方、がん治療の85%以上は1年以上の治療を継続しており、がん治療は長期間続くと言えます。※2

こうした経済的リスクに備える手段の一つががん保険です。診断一時金や先進医療特約、通院保障などを組み合わせることで、幅広い治療や生活費をカバーできます。

  1. ※1出典:厚生労働省「傷病分類別にみた年齢階級別退院患者平均在院日数、令和5年(2023)患者調査の概況」
  2. ※2調査期間:2020年8月5日~8月25日、回答者数:335名、実施方法:認定NPO法人キャンサーネットジャパンによるインターネットでの調査、調査対象:がんに罹患したことがある方、端数処理の関係で内訳の合計が100%とならないことがあります。

公的制度ではカバーされない費用も?保険でカバーすべき費用

高額療養費制度では、年収約370万円〜約770万円の方の場合、月額医療費の自己負担上限は約8~9万円程度となります。
ただし、先進医療の技術料(全額自己負担)、入院中の食事代や個室代、通院時の交通費など、公的制度ではカバーされない費用も多く発生します。また、治療により仕事を休む場合、傷病手当金で一部補填されますが、収入を完全に維持することは難しいため、生活費の補填が必要になることもあります。
こうした経済的リスクに備える手段の一つががん保険です。診断一時金や先進医療特約、通院保障などを組み合わせることで、幅広い治療や生活費をカバーできます。

がん保険の保障タイプと比較検討のポイント

ノートを前に考える女性 

一時金?通院重視?がん保険の主な保障タイプ

がん保険には目的や生活環境に合わせて選べる複数の保障タイプがあります。
一時金重視型は、がんと診断された段階でまとまった一時金が支給されるタイプです。100万円~300万円程度の給付金を一括で受け取れるため、治療費だけでなく通院費や休職中の生活費にも柔軟に対応できます。最近では、治療の長期化や再発・転移に備え、1年に1回、所定の条件を満たせば無制限で受け取れる商品が増えています。
都度給付重視型は、抗がん剤治療やホルモン療法など、がん治療に特化したタイプです。外来による治療が主流となっている現在のがん治療に適しており、治療を受けた月ごとにあらかじめ設定した5~30万円の治療給付金が定額給付されるタイプが一般的です。

保障内容を見極める!比較のポイン

保障内容を選ぶ際は、給付金の金額と支給回数、入院・通院の保障範囲、給付条件、対象となるがんの種類(上皮内新生物も含まれるか)を確認することが重要です。また、先進医療特約など保険外診療の保障額、がん以外の三大疾病特約、女性特定がん特約、保険料払込免除特約なども検討する必要があります。
最近では、スマートフォンアプリでの簡単手続きなど、利便性を高めたサービスも登場しています。

オンライン申し込みの活用

最近ではインターネット申し込み可能ながん保険が増えており、自宅で複数商品をじっくり比較できます。見積もりや契約手続きもスムーズで、チャット相談サポートを設ける会社も多く、初心者でも安心して進められます。
ただし利便性だけでなく、給付条件や特約内容、保障期間などの詳細をしっかり確認することが大切です。

ライフステージ別の賢い選び方

リビングで楽しんでいる親子3代 

自己負担限度額をベースに保険金額の検討を

医療費が高額になったとしても、医療機関の窓口で支払う金額には、ひと月あたりの上限(自己負担限度額)が設けられています。これは「高額療養費制度」と呼ばれる制度です。医療機関の窓口で支払った医療費が、ひと月(毎月1日から末日まで)で上限額を超えた場合、超えた分が後から払い戻される仕組みとなっています。ただし、入院時の食事代や差額ベッド代などは高額療養費制度の対象外です。

  • 健康保険組合などによっては、独自の助成制度を行っている場合があります。

この自己負担の上限額は、ご自身の世帯の所得に応じて段階的に設定されています。そのため、まずはご自身の世帯がどの区分に当てはまるかを確認し、自己負担限度額がいくらになるのかを把握しておくことが大切です。

その上で、万が一に備えて、自己負担限度額や、高額療養費制度の対象外となる費用をカバーできるような保険金額を検討しましょう。特に、ライフステージの変化に合わせて見直すことが重要です。ここでは各ライフステージ別の目安となる考え方をご紹介しますので、検討の参考にしてください。

20〜30代:保険料を抑えて早めの備えを

若い世代はがんリスクが比較的低いものの、就職や結婚を機に備えを検討する人が増えています。がん治療の自己負担分やその他の費用、一時的な休職による収入減に備えて、診断給付金100万円、治療給付金10万円程度を中心とした、保険料負担の少ない保障設計がおすすめです。月額保険料1,000円~3,000円程度から始められる商品も多く、家計への負担を最小限に抑えられます。

40〜50代:家族を守る手厚い保障を

働き盛りとなる世代は、収入が高くなる分、子どもの教育費や住宅ローン返済など、支出も増えていきがちです。治療費に加えて休職による収入減にも備える必要があります。診断給付金200万円~300万円程度、治療給付金5~30万円程度といった手厚い保障が適しています。
働けない期間の生活費をカバーするための保障や、再発・長期治療に備えた複数回給付タイプの検討も重要です。

60代以降:再発や通院を見据えてシンプルに

再発や長期通院リスクが高まる年代では、治療の継続性を重視した保障設計が重要です。また、2025年4月から65歳までの「雇用確保」が義務化されるなど、まだ就労している方が少なくありません。老後への備えの準備状況も踏まえつつ、通院時の交通費や治療継続費用に対応できる保障が安心で、診断給付金100万円~200万円、治療給付金5~30万円程度といった内容が考えられます。
保険料とのバランスを見ながら、必要な保障に絞ってシンプルに整えることがポイントです。

家族構成に応じた見直し

独身の場合は診断給付金と治療保障を中心とした、シンプルで保険料を抑えた構成で十分対応できます。家族がいる方は入院費や収入減少に備えた手厚い保障が安心です。
子どもの独立後は、再発リスクや長期通院への対応を重視した内容への見直しがおすすめです。ライフステージの変化に応じた柔軟な調整が、負担を抑えながら安心につながります。

まとめ

がんは、誰にでも起こりうる身近な病気です。医療技術の進歩によって治療法は多様化し、選択肢も広がっていますが、それでも治療費の負担や治療中の収入減といった経済的不安は、患者さんやそのご家族にとって大きな心配の種となっています。

こうした経済的リスクに備える手段のひとつが「がん保険」です。ただ、現在はさまざまな保険商品が販売されており、その中から自分に合ったものを見つけるのは簡単ではありません。

実際のところ、がん保険の「おすすめ」は一人ひとり異なります。年齢や家族構成、収入、生活スタイルなどによって必要な保障内容は変わってくるため、「これが一番」と断言できる保険は存在しないのが正直なところです。

そのため、まずはご自身の家計状況やライフプランを見直し、どのような保障があれば安心できるのか、そして毎月どのくらいの保険料なら無理なく支払えるかを明確にするところから始めるとよいでしょう。
また、最近のライフステージという「内的要因」だけではなく、最新のがん医療に対応した保障内容であるか、高額療養費などの制度の改正に対応できているかなどの「外的要因」も非常に重要なポイントとなります。
保険会社などの無料保険相談サービスでは、ライフプランニングから相談に乗ってくれるサービスもあります。最新の医療や制度改正の情報も入手できますので、上手に利用しましょう。
がん保険を選ぶ際には、複数の選択肢を比較し、保険料の安さだけでなく、給付の条件や保障範囲も含めて検討することが大切です。さらに、がん保険は長期間にわたって継続するものなので、今の状況だけでなく、将来的な家族構成の変化や収入の増減も見据えながら選ぶ必要があります。

最終的には、自分の暮らしや不安にしっかり寄り添ってくれる保険を見つけることが、もっとも納得のいく、そしておすすめできる選び方といえるでしょう。

黒田尚子
監修 黒田尚子

1992年日本総合研究所に入社。在籍中にFP資格を取得し、1997年退社。1998年4月にファイナンシャルプランナーとして独立。2009年に乳がん告知を受け、自らの体験をもとに、病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動や老後・介護・消費者問題にも注力。聖路加国際病院のがん経験者向けプロジェクト「就労リング」のファシリテーター、がんと暮らしを考える会のお金と仕事の相談員などに従事。2023年4月には、がん患者支援などを目的に患者家計サポート協会を設立し顧問を務める。近著は「がんとお金の真実(リアル)」(セールス手帖社)

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