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年末調整は“保険棚卸し”の好機!がん保険、眠っていませんか?

複雑に感じられる生命保険料控除は、思わぬ見落としが生じることも少なくありません。
10〜11月に届く控除証明書の読み違いや、合算ルールの誤解によって、控除を逃す可能性があります。

がん保険を2012年1月1日以降に契約した場合(新制度)、「介護医療保険料控除」の対象となります。

新制度の控除限度額は、以下の通りです。
所得税:各区分4万円、全体の合計は12万円
住民税:各区分2.8万円、全体の合計は7万円(※)

契約日によっては旧制度が適用される場合もあるため、契約時期の確認も欠かせません。
さらに、控除証明書が届く時期は保障内容を点検する絶好のタイミングでもあります。給付金支払い条件や特約、保険料の負担感、公的医療保険との補完関係を確認し、現在のライフステージに合っているかを整理しましょう。
本記事では、控除証明書の見方、区分と合算の注意点、がん保険の選び方や見直しのコツまでを解説し、年末調整で損をしないためのポイントをお伝えします。
※各区分の上限は2.8万円ですが、合計した場合は7万円が限度となるため注意が必要です。

2012年以降のがん保険は「介護医療保険料控除」で申請

パソコンに向かう男性社員

年末調整の申告時によく迷うのが、がん保険の控除区分です。

2012年1月1日以降に契約した場合は新制度が適用となり、「介護医療保険料控除」の対象となります。
2011年12月31日以前に契約した場合は旧制度が適用となり、「一般生命保険料控除」の対象となります。


保険会社から届く生命保険料控除証明書の区分欄と保険料の両方を必ず確認したうえで、「給与所得者の保険料控除申告書」の介護医療保険料または一般生命保険料欄へ記入します。

介護医療保険料控除に区分される理由

介護医療保険料控除は「病気やけがに備える保険料」が対象とされます。
がん保険は、がんの入院・手術・放射線治療・など、治療時の保障に該当するため死亡保障や貯蓄性を目的とした保険とは区別されます。2010年度 の税制改正でこの控除区分が新設されました。

控除証明書の見方と注意

控除証明書では「区分」と「金額」に注目します。がん保険は新制度の場合、介護医療保険料控除の対象ですが、旧制度では一般生命保険料控除になります。途中解約や払込免除があっても、年末調整では控除証明書に記載された金額をそのまま転記します。
電子交付や団体扱い(給与天引き)の場合も、勤務先の指示に沿って提出します。 記入漏れや名義の相違に注意しましょう。

他控除との合算における注意点

控除される金額は区分ごとに計算します。例えば、介護医療保険料控除の対象となるがん保険に加入している場合、その保険料は他の区分(一般生命保険料・個人年金保険料)となる契約の保険料と合算して控除額を計算することはできません。控除される金額も、住民税と所得税それぞれ限度額があります。

また、同じ控除証明書を年末調整と確定申告の両方で重複計上することはできません。 配偶者など生計を一にする親族の契約分については、実際に保険料を負担している人が控除を受けられるため、保険料の支払いが誰になっているかも確認が必要です。

年末調整は「がん保険棚卸し」の絶好機

スマホを持って微笑む女性 

控除証明書は保険の点検のきっかけになります。控除証明書を見れば、年間払込保険料、契約者名義、一覧できるため、保障内容や払込方法をチェックする良い機会です。

保障が重複している契約がないか、特約の保障内容が現在の治療法に合っているか、保険料に負担感はないか、などの観点から見直すことができます。11月頃になっても控除証明書が届かない場合は早めに再発行を依頼しましょう。

なぜ年末調整時期が最適なタイミングなのか

一般的に、秋口から各社が控除証明書を送付するため、保険証券や約款とあわせて手元に資料が揃いやすい時期です。年間払込保険料の総額や特約の有無を一覧にすると、翌年の税負担や家計の見通しと照らし合わせることができ、契約内容を調整しやすくなります。そのため、保険の見直しが最適なタイミングと言えます。

長く見直していないがん保険に潜む留意点

長く見直していない契約には以下の注意が必要です。

最新の治療内容と保障のアンマッチ:入院してから一定日数を経過しないと入院保障対象とならない、上皮内新生物の治療が保障に含まれていない、外来治療の保障がないなど、最新の治療に対応できない可能性があります。

契約更新に伴う保険料アップ:更新型の契約は年齢とともに保険料が上がり、負担が大きくなる場合があります。

税制面での違い:契約した時期によって、控除区分が変わります。長く見直していない契約は旧制度の可能性があります。

ライフステージに応じた保障の再確認

ライフステージに沿って保障を整理することも必要です。以下は、ライフステージごとの確認ポイント例です。

独身・共働き期:技術料が自己負担となる先進医療の保障や、診断一時金を重視。
子育て・住宅ローン期:収入減少時の家計防衛を重視し、給付金の受け取り条件を確認。
50代~60代:更新型の保険料上昇や払込期間を点検。
70代以降:固定費を抑え、必要保障に絞り込み。

自分に最適な「がん保険」の選び方

電卓とバインダー

がん保険の選び方は「給付金の受け取りやすさ」と「保険料の負担感」の両面から考えます。
まずは公的医療保険でカバーされる範囲を把握し、カバーできないの部分を補うための保障を検討しましょう。
診断給付金の有無や金額、通院時の保障はあるか、収入減となった場合のサポートはあるかなどが検討項目です。
契約の形態も重要です。更新型は将来の保険料上昇に注意が必要で、終身型は払込期間と生活設計を照らし合わせて検討します。
また、特約は必要最小限に絞り、先進医療や通院時の保障を重視するのが効率的です。

公的医療保険との補完関係を考える

公的医療保険では高額療養費制度や傷病手当金が利用できますが、先進医療の技術料や差額ベッド代、食事代、通院交通費などは対象外です。がん保険はこうした自己負担を補う役割があり、診断一時金や通院時の保障を組み込むと安心です。

専門家への相談や情報収集のコツ

まず国税庁のホームページで控除の対象や必要書類を確認しましょう。
控除証明書の発行時期の確認や再発行は、保険会社に申し出が必要です。商品の相談はFP(ファイナンシャルプランナー)や保険会社の営業担当者に、税務の最終判断は税理士に相談するのが安心です。相談前に証券や控除証明書を確認し、質問事項をまとめておくと効率的です。

まとめ

生命保険に加入している場合、その年に支払った保険料を申告することで翌年の所得税・住民税から保険料控除が受けられます。そのため、年に一度発行される控除証明書が届いたら必ず確認しましょう。年末調整を受けない場合は、確定申告での対応も可能です。 毎年、控除証明書が届いたタイミングを「保険棚卸し」の基準日にして、保障内容と控除の両面から見直す習慣をつけましょう。

黒田尚子
監修 黒田尚子

1992年日本総合研究所に入社。在籍中にFP資格を取得し、1997年退社。1998年4月にファイナンシャルプランナーとして独立。2009年に乳がん告知を受け、自らの体験をもとに、病気に対する経済的備えの重要性を訴える活動や老後・介護・消費者問題にも注力。聖路加国際病院のがん経験者向けプロジェクト「就労リング」のファシリテーター、がんと暮らしを考える会のお金と仕事の相談員などに従事。2023年4月には、がん患者支援などを目的に患者家計サポート協会を設立し顧問を務める。近著は「がんとお金の真実(リアル)」(セールス手帖社)

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